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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)2302号 判決 1989年2月20日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告らに対し、別紙請求債権目録中の「時間外賃金請求額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五三年五月一二日から(原告宮脇久太郎の分については内金一四三万四二九九円について同日から、内金一万〇三八四円について昭和六〇年一〇月四日から)支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告大阪府

主文と同旨

2  被告国

(一) 主文と同旨

(二) 担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 近畿保安警備株式会社(以下「近畿保安警備」という)は、被告大阪府(以下「被告府」という)から大阪府立の高等学校、盲聾学校、養護学校及び工業高専(以下「府立高校等」という)の警備業務(以下「本件警備業務」という)の委託を受け(以下「本件委託契約」という)、その従業員を右警備業務にあたらしめることを業としていた。

(二) 原告らは、いずれも近畿保安警備の従業員であって、府立高校等の警備業務に従事していた。

(三) 被告国は労働基準監督署を設置している。

2  時間外労働についての賃金請求権

(一) 時間外労働の時間数

原告らは、府立高校等において、平日は午後五時から翌日午前八時三〇分まで一五時間三〇分、土曜日は午後○時三〇分から翌日午前八時三〇分まで二〇時間、日曜祝祭日は午前八時三〇分から翌日午前八時三〇分まで二四時間、盗難火災その他の異常事態に備えて待機するのみならず、施設内の巡視、電話の収受その他の業務に従事した。したがって、原告らの時間外労働時間数は、平日七時間三〇分、土曜日一二時間、日曜祝祭日一六時間となる。

(二) 一時間当たりの基準賃金額について

(1) 近畿保安警備における各年度の賃金明細は次のとおりである。

<1>昭和四七年度

本給、職能給、保安手当、定時制校手当、役付手当、土日祝祭日手当、休日出勤手当

<2>昭和四八年度

本給、職能給、保安手当、定時制校手当、皆勤手当、ボイラー手当、特殊校手当、役付手当、土日祝祭日手当、休日出勤手当

<3>昭和四九年度

本給、職能給、保安手当、定時制校手当、皆勤手当、管制機手当、ボイラー手当、特殊校手当、役付手当、土日祝祭日手当、休日出勤手当

<4>昭和五〇年度

本給、職能給、保安手当、定時制校手当、皆勤手当、管制機手当、ボイラー手当、特殊校手当、役付手当、土日祝祭日手当、休日出勤手当、特別休暇手当

<5>昭和五一年度

本給、職能給、保安手当、定時制校手当、管制機手当、ボイラー手当、特殊校手当、役付手当、土日祝祭日手当、休日出勤手当

<6>昭和五二年度

本給、職能給、定時制校手当、管制機手当、ボイラー手当、特殊校手当、役付手当、土日祝祭日手当、休日出勤手当、深夜見込手当

(2) 右各内訳のうち、土日祝祭日手当、休日出勤手当、特殊休暇手当、深夜見込手当以外の合計が割増賃金の基礎となる賃金であり、別紙時間外賃金明細目録中の「基準内賃金」欄は右割増賃金の基礎となる賃金の一か月分の合計額を算出したものである。

(3) 一か月の勤務日数は平均二六日であり、法定労働時間は一日八時間であるから一か月当たりの同労働時間は二〇八時間となる。別紙時間外賃金明細目録中の「時間単価」欄は右基準内賃金を二〇八で除したものであり、一時間当たりの基準賃金額である。

(三) 時間外賃金の算出方法

(1) 原告らの前記労働時間数によると、原告らは近畿保安警備に対し、平日においては、午後一〇時より午前五時までの七時間分の深夜割増賃金並びに七時間三〇分相当分の基準賃金及び時間外割増賃金、土曜日においては、午後一〇時より午前五時までの七時間分の深夜割増賃金並びに一二時間分の基準賃金及び時間外割増賃金、日曜祝祭日においては、午後一〇時より午前五時までの七時間分の深夜割増賃金、一六時間分の基準賃金並びに二四時間分の時間外割増賃金の各請求権を有する。

(2) 一時間当たりの基準賃金額をaとすると、一日当たりの未払賃金は以下のようになる。

平日 7×0.25×a+7.5×1.25×a=11.125a

土曜日 7×0.25×a+12×1.25×a=16.75a

日曜祝祭日 7×0.25×a+16×a+24×0.25×a=23.75a

(四) 原告らの昭和四七年一二月二一日から同五二年一〇月二〇日までの時間外賃金は、別紙時間外賃金明細目録記載のとおりである。同目録中の「時間外賃金(日当)」欄は同目録中の「時間単価」に右(三)(2)で算出した一日当たりの未払労働時間数(平日一一・一二五時間、土曜日一六・七五時間、日曜祝祭日二三・七五時間)を乗じたものであり、同目録中の「年間時間外賃金」欄は各曜日ごとのその期間内での時間外賃金の小計であり、それを合計したものが同目録中の「時間外賃金(年間)」となる。

3  本件警備業務は監視又は断続的労働に該当しないこと

(一) 天満労働基準監督署長は昭和四三年六月三日、近畿保安警備(当時の商号は株式会社オーエスシー保安管理事業所、以下商号変更前でも近畿保安警備という)が同年五月二五日にした申請(以下「本件申請」という)により、労働基準法(以下単に「法」ということがある)四一条三号の適用除外許可処分(以下「本件許可処分」という)をした。

(二) しかしながら、原告ら常駐警備員の労働は、法四一条三号の監視又は断続的労働には該当しない。

(1) 監視に従事する者とは原則として一定部署にあって監視することを本来の業務とし、常態において身体又は精神的緊張の少ないものをいう。

<1> 原告らは、平日勤務において二二時から翌日午前六時(現実にはこれよりも短いことが多い)までは警報装置をセットしたうえで警備員室で監視業務につき、異常がなければ仮眠してよいとされているが、これ以外の七時間半の時間帯においては一回に三〇分以上要する四回の巡視、残留者の退出、各教室の窓や出入り口等多数箇所の戸締りの確認、外来文書、電報及び電話の収受、電話に対する職員等の呼出など警備員室外で多岐にわたる諸業務に従事し、これらに長時間を要する。

<2> このように原告らの業務は監視に尽きるものではなく、それ以外にも多くの重要な業務があるから、原告らは監視に従事する者にはあたらない。

(2) 断続的労働に従事する者とは休憩時間は少ないが手待時間が多い者をいう。しかし、原告らは、校内に常駐警備し、巡視、呼出などをしていないときも校内の監視に従事しており手待時間は皆無であるから、原告らは断続的労働に従事する者には該当しない。そして、断続的労働か否かを判断するにあたり、監視を手待時間に含めることは概念矛盾であり相当でない。

(3) 法四一条三号の監視又は断続的労働に該当するためには、形式的に労働形態がそれにあたるのみならず、法第四章及び第六章の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用がなくとも労働者保護に欠けることがない場合でなければならない。

<1> 原告らの業務は平日でも一五時間三〇分に及び、その業務内容も前述のように極めて多岐かつ密度が高く過酷である。二二時から翌日六時までの仮眠時間帯においても、僅かな物音に飛び起きる程精神的緊張は高くその度にその原因を確かめに行かなければならない。このような労働密度からして、原告らに右諸規定の適用が除外されることは労働者保護に欠ける。

<2> 原告らは、平日一五時間三〇分、土曜日二〇時間、日曜祝祭日二四時間労働し、祝祭日がない場合でも一週間一二一・五時間もの長時間労働し、さらに土曜日曜には連続して四四時間、土曜日曜祝祭日が続く場合には連続して六八時間も労働し拘束され、人たるに値する生活を営む自由時間はない。このような労働時間、拘束時間が長いことからして、原告らに右諸規定の適用が除外されることは労働者保護に欠ける。

4  使用者責任(被告府に対する請求)

原告らは形式上近畿保安警備の従業員であったが、被告府との間には使用従属関係が存在し、被告府は使用者として原告らの時間外労働に対する賃金を支払う義務を負う。

(一) 賃金に対する包括的支配

本件委託契約の契約金(以下「本件契約金」という)は、近畿保安警備の収入の九割以上を占め、原告らの賃金も右契約金によって支払われ、本件契約金額が増加しなければ原告らの賃金を上げることはできない状況であって、被告府もこの実態を知っていた。したがって、被告府は原告らの賃金額を現実に決定していた。

(二) 労働条件全般に対する包括的支配

(1) 被告府は近畿保安警備に対し本件委託契約書添付の仕様書により、原告らの提供すべき労務すなわち常駐警備の方法、労働時間、労務遂行内容などのすべてを指示命令していた。

(2) 被告府は近畿保安警備に対し本件委託契約書一二条に基づき、従業員の再教育、交替等の指示を行った。近畿保安警備は被告府の要求により、新谷明博を警備員から別の仕事に配転した。このように被告府は原告らの人事を支配していた。

(3) 近畿保安警備と原告らの所属する大阪府立高校保安警備員労働組合(以下「組合」という)との間で、昭和五四年六月一日警備員らの隔日勤務について合意が成立したが、大阪府教育委員会(以下「府教委」という)が委託料の増額を認めなかったため、近畿保安警備は同年九月二八日右合意を破棄した。このように原告らと会社との間で労働条件改善の合意が成立しても、被告府の予算措置等がなければ実現しなかった。

(4) 原告らの労働条件を現実に決定しているのは、被告府であるため、原告らは組合員として府教委と団体交渉を重ね、被告府は一定の改善を約束し実行してきた。

(三) 労務遂行過程における支配

原告らは前記仕様書に基づいて府立高校等における労務を提供していたが、そのほかにも現場教職員によって諸々の雑用的業務を指示され、その管理に服していた。

5  不当利得(被告府に対する請求)

(一) 被告府の利得

被告府は、原告ら常駐警備員の労務の提供により、学校警備業務の遂行という利益を受け、その利益の額は原告らの八時間労働を前提とした賃金及び時間外労働に対する賃金の合計額である。被告府は近畿保安警備に対し、右利益の対価(本件契約金)として、八時間労働相当分の人権費及び若干の管理費しか支払っておらず、時間外労働に対する賃金相当額の利得を得た。右利得は府立高校等の維持管理がなされたという利益であり現存している。

(二) 原告らの損失

原告らは、時間外労働を含めた労務を提供したが、近畿保安警備から一日八時間相当分の賃金の支払を受けたにとどまり、時間外労働の労務に相当する損失を蒙った。右損失の額は適法な手続のもとに時間外労働に服したときの対価たる割増分も含めた賃金額を下回らない。

(三) 利得と損失との因果関係

(1) 被告府は本件委託契約により原告らから時間外労働に対する賃金の支払を必要とする労務の提供を受けながら、近畿保安警備に対し右賃金を含まない委託金しか支払わず、そのため原告らは同社から右賃金の支払を受けられなかった。

(2) 本件警備業務は府立高校等の維持管理としてなされるものであり、被告府は原告らの労務を直接受領したといえるから、その受領により利得を生じた。労務提供の受領者が近畿保安警備であるとしても、本件警備業務の遂行は、一面において原告らの前記損失を生ぜしめ、他面において被告府に右利得を生ぜしめたものである。

(3) 原告らは近畿保安警備に対し、時間外労働に対する賃金相当額の債権を有するが、このことは被告府に対する不当利得返還請求権を否定するものではない。

<1> 原告らの損失及び被告府の利得は偶発的事情によるものではなく、被告府が自ら当事者として締結した本件委託契約によるものである。

<2> 原告らの近畿保安警備に対する債権は、雇用契約によるものではなく、違法な時間外労働に服したことから生じる不法行為による損害賠償請求権であり、不当利得返還請求権と併存する。

<3> 近畿保安警備は破産宣告を受けその配当は皆無であり、原告らの同社に対する債権は無価値である。

(四) 法律上の原因を欠くこと

本件委託契約は、原告らの就労時間と労務内容を規定しながら、委託契約金に時間外労働に対する賃金相当額を含まないから、必然的に原告らが近畿保安警備から時間外労働に対する賃金の支払を受けられないという労働基準法違反の状態を招来するものである。したがって、労働基準法に違反する不当な本件委託契約に基づく被告府の利得は正義公平の観念に照らし正当とはいえず、法律上の原因を欠く。

6  国家賠償(被告国に対する請求)

被告国は、天満労働基準監督署長においてその職務を行うにつき、過失により違法に原告らに対し時間外労働に対する賃金相当額の損害を与えたものであるから、国家賠償法一条一項により原告らに対し右損害を賠償をすべき義務を負う。

(一) 天満労働基準監督署長は昭和四三年六月三日本件許可処分をした。

(二) 本件許可処分の違法性

(1) 原告らは法四一条三号の監視又は断続的労働に従事する者には該当しない。

(2) 天満労働基準監督署長は、本件申請に対し、原告ら常駐警備員の従事する業務の実態を把握しながら、同号の監視又は断続的労働に従事する者の解釈を誤って、原告らがこれに該当すると判断し、本件許可処分をしたものであり、同署長の過失は明らかである。

(3) 労働基準監督署長が同号の許可について裁量権を有するとしても、原告らの業務実態からして、本件許可処分は、労働基準法上到底許容されないところであり、裁量権を逸脱、濫用した違法のものである。

(4) 労働省労働基準局長は昭和四四年四月七月、「公立学校における教職員による宿日直勤務の廃止に伴いいわゆる委託契約によりこれらの業務に従事する用務員等に対する労働基準法上の取扱いについて」と題する通達(基収第三四三号の二、以下「本件通達」という)により、法四一条三号に該当するための要件を次のとおり示達した。

<1> 一日の拘束時間は一二時間以内とすること。ただし、睡眠時間を含む拘束時間が一六時間を超えない限り、これに相当する時間の拘束時間の延長を認める。

<2> 睡眠時間を除いた一日の拘束時間を一二時間以内とし、実労働時間はその折半以下とすること。

<3> 法三九条の規定による有給休暇のほか、一か月二日以上の休日を与えること。そのため休日及び休暇の代替要員を制度的に確保すること。

(5) しかしながら、原告らの労働実態は本件通達の要件を充足していない。

<1> 原告らは仮眠するにすぎず睡眠しないから、一日の拘束時間は一二時間を超え、さらに土曜日は二〇時間、日曜祝祭日は二四時間で、最長の一六時間をも超えているから、右<1>の要件に反する。

<2> 原告らの土曜日、日曜祝祭日の拘束時間は仮眠時間を睡眠時間としても、一日一二時間を超え、拘束時間から仮眠時間を控除した実労働時間は、平日にあっては六時間、土曜日、日曜祝祭日はそれ以上超えるから、右<2>の要件に反する。

<3> 原告らの場合右<3>の要件も充足していない。

(6) 法四一条三号は、労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用排除が重大な効果をもたらすため、これを行政官庁の許可にかからしめ、行政官庁に対し、右許可にあたって当該労働者の労働実態についての調査義務を課し、右調査義務は許可後も継続するというべきである。法律上右調査義務が認められないとしても、行政官庁は、自らの先行行為に基づく条理上の作為義務として、違法な許可処分を取り消す義務がある。

(7) 天満労働基準監督署長は、本件通達の基準に達しない本件許可処分を通達示達後相当期間内に取り消すべき義務がある。しかるに同監督署長は、本件許可処分を昭和五一年一二月九日まで漫然と放置し続けたものであり、被告国は右不作為による責任を負うべきである。

(三) 原告らの損害

原告らは本件許可処分により、本来雇用契約上の義務がないのにあると信じ、時間外労働の労務提供という損害を蒙り、さらにそのため人たるに値する生活を営むために最低必要な睡眠時間や自由時間をとることができず、人間的な生活を破壊されるという損害を蒙った。この損害額は適法な時間外労働に対する賃金額を上回るものであるが、原告らはそのうち右賃金に相当する額を請求する。

(四) 被告国の行為と原告らの損害との因果関係

(1) 本件許可処分は昭和五一年一二月九日取り消された。

(2) 本件許可処分は、原告らの労働実態が法四一条三号の予定する基準に達しないにもかかわらずなされたもので、違法無効の処分である。

(3) 本件許可処分が無効、または右取消により遡及効があると解する場合、原告らには時間外労働に対する賃金請求権が発生する。しかしながら、本件委託契約金額は、右賃金請求権が発生しないという前提で決定されており、原告らも右賃金請求権が発生しないものと考え、昭和五一年までは近畿保安警備に請求しなかった。そのため右請求権の行使が著しく困難となり、近畿保安警備が破産し、破産手続が廃止されたことにより、同社に右請求をすることは確定的に不可能となった。そして、本件許可処分がなされなかったならば、本件委託契約金額は時間外労働に対する賃金をも前提として決定されていたであろうから、本件許可処分と同処分取消前の原告らの損害との間には相当因果関係が存する。

(4) 本件許可処分の取消に遡及効はないと解した場合、原告らには時間外労働に対する賃金請求権は発生しないから、本件許可処分と原告らの右損害との因果関係は明らかである。

(5) 原告らは本件許可処分の取消以降、近畿保安警備に対し時間外労働に対する賃金請求権を取得したが、右取消時点において既に本件委託契約が締結されており、その契約金額は到底右賃金の支払に足りず、原告らの被告府に対する交渉によっても変更されず、その後も増額されなかったため、原告らは右取消以降においても右賃金請求権の行使が不可能となった。天満労働基準監督署長が本件許可処分をし、しかも七年半にわたって取消をせず放置したため、被告府は本件委託契約金額の増額に応じなかったものであり、本件許可処分取消後に生じた原告らの損害と右労働基準監督署長の行為との間には相当因果関係が存するというべきである。

7  よって、原告らは、被告府に対し使用者に対する時間外労働の賃金請求権又は不当利得返還請求権に基づき、被告国に対し国家賠償法一条による損害賠償請求権に基づき、いずれも別紙請求債権目録中の「時間外賃金請求額」欄記載の金員及びこれに対する弁済期の後、あるいは訴状又は訴の拡張の申立書の送達の翌日である昭和五三年五月一二日から(原告宮脇久太郎の分については内金一四三万四二九九円について同日から、内金一万〇三八四円について昭和六〇年一〇月四日から)支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

(被告府)

1 請求原因1(一)及び(二)の事実は認める。

2(一) 請求原因2(一)の事実のうち、原告らの時間外労働の時間数は知らず、その余は認める。

(二) 同(二)(1)ないし(3)の事実は知らない。

(三) 同(三)(1)、(2)の事実は知らない。

(四) 同(四)の事実は否認する。

3(一) 請求原因3(一)の事実は認める。

(二) 同(二)のうち、原告らの労働が法四一条三号の監視又は断続的労働に該当するか否かは知らない。

4 請求原因4冒頭の主張は争う。

(一) 同(一)の事実は否認する。本件契約金は総額で決められており、その個々の内容を明示又は限定しておらず、本件委託契約は警備員の給料額を決定するものではない。

(二)(1) 同(二)(1)の事実のうち、本件委託契約には仕様書が添付され、同仕様書は常駐警備の方法、時間、警備遂行内容を定めたものであることは認めるが、仕様書が原告らの労務提供に対する指示命令であったことは否認する。仕様書に警備の方法や時間等を定めて委託することは、警備業務の委託として当然のことである。

(2) 同(二)(2)の事実のうち、被告府が原告らの人事を支配していたことは否認し、その余は認める。警備を依頼するにあたっては、事柄の性質上委託者において、警備員の資質に関心をもち、警備員としてふさわしくない事実が認められた者についてその指導や交替を求めることは当然であり、決して人事を支配したことにはならない。新谷は私用で学校の電話を使い市外電話をして多額の電話料を学校に負担させ、これを注意しても止めなかったから、同人の交替を求めたものである。

(3) 同(二)(4)の事実は否認する。被告府は原告ら組合員と話合の機会をもち、要望を聞くことはあったが、団体交渉をしたものではない。

(三) 同(三)の事実のうち、原告らは府立高校等において労務を提供し、実際には仕様書に記載された以外の業務も行っていたことがあることは認めるが、その余は否認する。学校管理者のいないときに警備を行う必要上、学校側から警備員に指示連絡をすることはあったが、これをもって警備員を指揮命令したことにはならない。また、警備員と学校教職員とで親しい人間関係ができ、教職員がその人間関係に基づいて警備員にものを頼むことがあったが、これをもって警備員を支配したとはいえない。

5 請求原因5(一)ないし(四)の事実は否認し、その主張は争う。本件契約金は人件費をいくらと計算して決めているものではないから、被告府が八時間労働相当分の人件費しか支出していないとはいえない。また、近畿保安警備が労働条件を決定しているのであるから、時間外労働に対する賃金相当額が本件契約金に含まれているか否か即断することはできない。したがって、割増賃金相当額が利得されている旨並びに本件委託契約自体が労働基準法に違反する旨の原告らの主張は失当である。

(被告国)

1 請求原因1(一)及び(三)の事実は認め、同(二)の事実は知らない。

2 請求原因2(一)ないし(四)の事実は知らない。

3(一) 請求原因3(一)の事実は認める。

(二)(1) 同(二)のうち、原告らの労働が法四一条三号の監視又は断続的労働に該当しないとの主張は争う。

(2) 法四一条三号所定の監視労働とは、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体の疲労又は精神的緊張の少ない労働をいい、断続的労働とは、本来業務が間欠的であるため労働時間中においても手待時間が多く実作業時間が少ない労働をいい、両者は必ずしも明確に区分し得るものではないが、いずれも通常の労働と比較して労働密度が希薄であることが共通し、それ故、法所定の労働時間、休暇、休日の規定を適用しなくても労働者保護に欠けるところがないので、本条によってその適用を除外したものである。ただし、監視又は断続的労働といってもその態様は千差万別であり、一般の労働と明確な区別をつけ得る客観的基準がないため、右適用除外を行政官庁の許可にかからしめているのである。

(3) 原告らの従事した警備業務は学校の放課後における校内の火災、盗難等の予防ための警備、電話や文書の収受等であり、学校における一般の宿直や日直業務と何ら異なるものではない。午後一〇時より翌日午前六時までの八時間については、その間に警報機が発報するという稀な場合を除いては、原告らには業務はないのであり、宿直室において寝具を用いて睡眠している。また、校内巡視回数についても、平日四回、土曜日五回、日曜祝祭日六回であって、一回当たりの所要時間は三、四〇分であり、他に電話の応対、取次や来校者の応対などの単純作業がたまにある程度で、その労働密度は極めて希薄である。

(4) 原告らは平日において午前八時半から午後五時までの間職場を離れて自由時間が確保できるのであり、さらに本件許可処分の撤回後においても、原告らの労働態様は、割増賃金の支払の点を除けば従前と同様であって、過酷で非人間的な生活を強いるものとは到底いえない。

(5) 原告らは、土曜日曜祝祭日等の連続勤務により非人間的な長時間拘束を強いられる旨主張するが、このような場合には代替人による代勤が保障されるほか、有給休暇権の行使もなし得る。

(6) 以上のとおり、原告らの労働は法四一条三号の監視又は断続的労働に該当するものであるから、本件許可処分は適法である。

4 請求原因6冒頭の主張は争う。

(一) 同(一)の事実は認める。

(二)(1) 同(二)(1)ないし(3)は争う。天満労働基準監督署長は、近畿保安警備の実態調査を行い、調査復命書、監督復命書及び大阪府立高等学校保安要員雇傭契約書を検討した結果、原告ら常駐警備員は昭和二二年第一七号通達法四一条関係(三)(1)の火の番、門番、守衛等に該当すると判断し、本件申請を許可した。法四一条三号の行政庁の許可は、同条の規定及び趣旨からして自由裁量行為であり、許可をするにあたっての調査方法は相当な方法で足り、常に事業場に臨検しあるいは労働者の意見を聴取しなければならないものではない。また、前述のように原告らの労働は法四一条三号の監視又は断続的労働に該当する。したがって、本件許可処分は相当であって何ら違法ではない。

(2) 同(二)(4)のうち本件通達が出されたことは認めるが、その余は争う。本件通達は学校業務一般についての基準を示したものではなく、佐賀労働基準局長の個別の事案に対する処理意見の質疑応答及びその結果を通知したものにすぎない。しかも本件通達は土曜、日曜祝祭日の拘束時間についての監視又は断続的労働を想定して策定されたものではない。したがって、本件通達の要件に適合するか否かによって、本件事案の許可、不許可を決定すべきではない。

(3) 同(二)(5)の事実は否認する。

(4) 同(二)(6)は争う。本件通達が出された以降、本件許可処分につき再調査し取り消すべき義務を肯認すべき根拠は存しない。本件許可処分を撤回するか否か、又撤回の時期については当該行政庁の広範な自由裁量に委ねられており、本件において右裁量権の不行使が著しく合理性を欠くとする事情はなく、天満労働基準監督署長の権限不行使を違法ということはできず、被告国に不作為による責任はない。

(三) 同(三)は争う。

(四)(1) 同(四)(1)の事実は認める。天満労働基準監督署長は、昭和五一年一二月九日原告らの所属する組合からの申告により、本件許可処分に関して労働紛争が発生したことを確認し、本件許可処分については労働者からの不服申立制度がないため、労働者と使用者が労働条件についていわば白紙の状態で交渉することができるように配慮し、本件通達を一応の参考として、本件許可処分を取り消したのである。本件許可処分の取消は、講学上の撤回であるから、取消(撤回)によって、本件許可処分が適法であったことに変化はない。

(2) 同(四)(2)ないし(5)は争う。原告らが長時間の業務に服すべき法律上の義務は、本件許可処分から生ずるものではなく、原告らが使用者と締結した労働契約から発生するものであり、原告らの具体的な労働の態様及び労働条件の決定は、労使の自主的決定に委ねられる余地のあるものである以上、仮に原告らが本件許可処分が長時間労働を義務付けるものと誤信したとしても、それは原告らの責任に帰すべきものであって、被告国が責任を問われるいわれはない。さらに本件許可処分を撤回した後においては、原告らと近畿保安警備又は被告府との交渉の有無や内容並びにその結果について被告国は何ら関知しないところであって、被告国が原告らに対し損害を賠償すべき根拠はない。したがって、本件許可処分及びそれを撤回しなかったことと、原告らの長時間労働との間には相当因果関係は存在せず、かつ被告国の責に帰すべき原告らの損害も存在しない。

三  抗弁(被告国)

1  原告らの請求する未払賃金相当額の損害のうち、昭和五一年一二月九日の本件許可処分の撤回以降の時間外労働に対する賃金については、次のとおり近畿保安警備より支払がなされているので、原告らには賃金相当額の損害はない。

2  近畿保安警備は、原告らの所属する組合と協議を重ね、右撤回の日より昭和五二年三月二〇日までの分については同年四月二二日付け協定、同年三月二一日より同年五月一五日までの分については同年六月二〇日付け協定、同年五月一六日より同月二〇日までの分については同年七月五日付け協定により、それぞれ原告らに対する支給額を確定し、原告らにその金額を支払った。同年五月二一日以降の分については、同年七月五日付け協定に基づき、毎月の賃金支給日に支払ずみである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1及び2の事実のうち、近畿保安警備と原告らの所属する組合との間で昭和五二年四月二二日付け、同年七月五日付け各協定が成立し、昭和五一年一二月九日以降同五二年一〇月二〇日までの間の時間外労働に対する賃金の一部が支払われたことは認めるが、その余は否認する。右は一部分の支払にすぎず、原告らは弁済を受けた金額を請求債権額から控除して本訴請求をしている。

第三  証拠<省略>

理由

一  本件委託契約締結の経緯等

<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

1  被告府は昭和四二年四月から、これまで同被告が行っていた府立高校等における学校職員の勤務時間外の警備業務を民間に委託することとし、委託業者の選定は指名競争入札により、株式会社大阪サービスセンター(以下「大阪サービスセンター」という)が落札した。大阪サービスセンターは、昭和四三年度から同四七年度まで毎年随意契約により本件警備業務の委託を受け、同四三年四月に同社役員が中心となって設立した同社の子会社である近畿保安警備(設立当時の商号は株式会社オーエスシー保安管理事業所、昭和四六年五月に近畿保安警備と商号変更)が下請として本件警備業務を行っていた。

2  本件警備業務は昭和四八年度から従前の常駐警備に加えてパトロール警備と警報警備が導入された。同年度における本件警備業務の委託も指名競争入札により、近畿保安警備が落札し、同社は昭和四九年度から同五九年度まで毎年随意契約により被告府から本件警備業務の委託を受けた。

3  常駐警備というのは、夜間等において警備員が学校内の警備員室に寝泊まりし、定期的に学校内を巡視すること等によりなされる警備方法であり、パトロール警備というのは、近畿保安警備の中央管制室と無線でつながっているパトロールカーで定期的に学校を巡回し、異常が発生したときは学校現場へ急行するという警備方法であり、警報警備というのは、校長室、事務室、職員室等学校の主要な場所に端末の感知機を置き、窓とかドアが開閉したときに学校の警備員室と近畿保安警備の中央管制室にある各監視盤に異常を知らせ、それにより警備員が現場に駆けつけるという警備方式であった。本件警備業務の内容は、被告府と近畿保安警備間で毎年締結された本件委託契約の契約書添付の仕様書に明記されていた。

4  天満労働基準監督署長は昭和四三年六月三日、近畿保安警備の申請に基づき、本件警備業務に従事する警備員に関し本件許可処分をした。

5  原告らの所属する大阪府立高校保安警備員労働組合は、昭和五一年一一月近畿保安警備との団体交渉において、同社が本件警備業務について法四一条三号の許可を得ていないのではないかとの問題を指摘し、同社から本件許可処分書の提示を受けたので、天満労働基準監督署長に対し右許可処分の取消を文書で要請し、同署長は昭和五一年一二月九日付けで、土曜日、日曜等における連続勤務並びに年末年始における連続勤務等は本件通達の許可基準を充足していないことを理由として、本件許可処分を取り消した。

6  近畿保安警備は、昭和四九年度以降本件契約金を決定するにあたり、事前に被告府に要望書を提出していた。右要望書は、会社経営の実情を示し委託契約金の増額を要請する趣旨の文書であり、常駐警備、パトロール警備、警報警備及び一般管理費の各項目ごとに詳細な費目を掲げ、具体的な数字を記載していた。

7  しかしながら被告府は、本件契約金の決定にあたり、各費目ごとの具体的な金額を検討しそれを積算するという方法を取らず、年間物価上昇率や三公社四現業の賃上げ率等を勘案し、各前年度の契約金をスライドさせて当該年度の契約金を決め予算措置を講じ、近畿保安警備の見積額が右予算額の範囲内であれば、同社の見積額で契約していた。本件委託契約書には包括的な委託契約金額の記載のみがあり、明細は記載されていなかった。

8  原告ら警備員の賃金は本件契約金から支払われており、右契約金の大部分が人件費にあてられた。近畿保安警備は、府立高校等の警備のほか民間の警備も請け負い、それは全契約高の二割程度を占めていたが、昭和五三年四月ころ近畿ビル管理会社を設立し、民間部門を新会社に移行し、それ以後被告府から委託された警備のみを行うようになった。近畿保安警備は昭和五九年八月七日当庁においては破産宣告を受け、同六〇年七月二三日破産手続廃止(残余財産なし)により消滅した。

(なお、以上の事実のうち、4の事実及び近畿保安警備が被告府から府立高校等の警備業務の委託を受けていたことは当事者間に争いがなく、天満労働基準監督署長が昭和五一年一二月九日本件許可処分を取り消したことは原告らと被告国間において争いがない。)

二  原告らの業務内容等について

<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められ、これに反する原告原、同新谷各本人尋問の結果は採用しない。

1  近畿保安警備は、新聞広告や職安を利用して警備員を募集し、応募者に労働条件を説明し面接を行って採用のうえ、採用した従業員の具体的な仕事内容及び配置場所を決めていた。近畿保安警備は昭和四四年に同社の従業員により結成された組合との間で交渉を行い、賃上げ等の労働条件について決定していた。被告府は近畿保安警備の行う従業員の採用及び配置、労働条件の決定等については何ら関与していなかった。

2  原告らはいずれも近畿保安警備に雇用され、常駐警備員として警備業務に従事していた。近畿保安警備は雇用している警備員に対し、本件委託契約書添付の仕様書写しを渡し、その記載内容のとおり警備業務を行うのが仕事であり、それ以外は行う必要がない旨指示していた。

3  常駐警備員の仕事は、原則として一校につき一名が学校内の警備員室に寝泊まりし警備業務を行うというものであり、その時間は全日制職員の正規の勤務時間以外の時間であって、平日は一七時から翌日八時三〇分まで、土曜日は一二時三〇分から翌日八時三〇分まで日曜祝祭日は八時三〇分から翌日八時三〇分までであった。常駐警備員には一か月当たり四、五日の休日が与えられていた。常駐警備員が休日のときや病気等で休むときは、近畿保安警備に雇用されていた代勤要員が代わって常駐警備に従事した。

4  常駐警備員の警備業務の内容は昭和五一年度以前と同五二年度以降の仕様書では多少異なるが、おおむね以下のとおり定められていた。

(一)  構内全般の戸締まりの点検、校門及び管理棟の最終出入口の施錠。

(二)  定時制課程又は通信制課程の授業等のある場合には一七時から学校職員の勤務時間終了時までの間は原則として守衛的業務に携わること。

(三)  被告府が定める場所について巡回時計を携帯して巡視を行い、戸締まり火気等に注意すること。

(四)  警報装置の作動開始及び作動解除。

(五)  翌朝における校門及び管理棟の最終出入口の開錠。

(六)  外来文書及び電話電報の収受。

(七)  火災、盗難等異常事態が発生したときに関係機関及び校長に連絡するとともに臨機の措置をとること。

(八)  挙動不審者に対し撤去命令及び必要な措置をとること。

(九)  学校施設の目的外使用等の場合における使用後の戸締まりの点検及び火気等の注意。

(十)  学校警備業務日誌の記録。

右(三)の巡視は、全校内を巡視するというもので、一回に三、四〇分程度の時間を要し、その回数は、昭和五一年度までは<1>八時三〇分から一七時まで四回、<2>一二時三〇分から一七時まで二回、<3>一七時から翌朝八時三〇分まで四回(夜間授業のある場合は全校内巡視三回と自転車置場等の巡視二回)と定められ、昭和五二年度以降は<1>八時三〇分から一二時三〇分まで一回、<2>一二時三〇分から一七時まで一回、<3>一七時から二二時まで二回(守衛的業務に携わる場合は一回)、<4>六時から八時三〇分まで一回と定められていた。

5  学校職員の正規の勤務時間は、全日制の場合、平日は八時三〇分から一七時一五分まで、土曜日は八時三〇分から一二時三〇分まで、定時制の場合は一二時五五分から二一時までであり、学校職員及び生徒は、全日制の場合は遅くとも二一時ころまで、定時制の場合は通常二二時ころまで例外的に遅くなる場合でも二三時ころまでに帰宅しており、それ以後早い場合で翌日の六時三〇分ころに早朝のクラブ活動のため生徒や教師が登校するまでは、学校に居るのは常駐警備員のみであった。常駐警備員の来校は学校事務長が確認していたが、校内における警備員の仕事を実際に監視監督する者はおらず、夜間警備員が学校を離れても、近畿保安警備も学校側もそれを把握することは困難であった。

6  常駐警備員は学校職員や生徒から仕様書に記載されていない仕事を依頼されることがあり、昭和四八年ころから組合としてもその点を問題とし、個々の警備員も近畿保安警備から右2のとおり指示を受けていたので、それが自己の仕事ではないことを認識していたが、人間関係を損なうことを危ぐし、また緊急の場合には本来の仕事ではなくても行うのは当然であるとの考えから、実際には、外部からの電話を内線を回したり呼出放送をするなどして取り次いだり、生徒らが負傷しあるいは疾病にかかった際の介助や連絡を行い、電話連絡をメモして学校側に渡したり、学校への納入業者から物品を受領するなど、仕様書に記載されていない事務を処理することもあった。被告府は学校当局に対し、警備員に対する指揮監督は会社が行うものであること、警備員には仕様書以外の業務をさせないことを繰り返し通知していた。

7  警備員は警備業務日誌を記録し、昭和五一年度まで学校側に提出していた。右日誌のほかに学校によっては警備員との間で連絡ノートや連絡帳を用いていたところもあったが、右日誌等の記入は警備員と学校側の連絡を密にするという目的から行われていたものであり、警備員の指揮監督の手段としてなされたものではなかった。

8  常駐警備員が着用している制服や使用している寝具、巡回時計及び懐中電灯並びに本件警備業務に使用しているパトロールカーや感知機等警報警備の装置については、近畿保安警備がその費用を負担していたが、冷暖房器具やテレビについては学校に設置されているものを利用することが多かった。

9  本件委託契約書一二条には、「近畿保安警備は、作業員の指導教育には責任をもってあたり、不都合がある場合には被告府の指示により再教育又は交替等の措置をとらなければならない」、一四条には「被告府は近畿保安警備の作業員で契約の履行又は管理につき不適当と認められる者がある場合には、理由を示して他の者と替えることを近畿保安警備に求めることができる」と規定されているが、これは被告府として、夜間警備員一人に学校全体を任せるのであるから警備員の資質に十分関心を払っていたため設けられたものであり、被告府は近畿保安警備に対し、従業員を替えるよう求めることができるにとどまり、実際に配転する権限を有していたわけではない。

10  被告府は昭和五四年一二月ころ近畿保安警備に対し、当時桃谷高校の常駐警備員であった新谷明博について、警備員から別の仕事に配転するよう要求し、同社はそれに応じたことがあるが、これは新谷が学校の電話を無断で私用に用い、学校側が高額の電話料を負担せざるを得なくなったことによるものである。

11  組合は昭和四四年ころから被告府に労働条件の改善等についての交渉を求め、昭和五二年三月には大阪地方労働委員会に府教委を相手方として団体交渉を求める旨の斡旋申請をしたことが契機となり、同年四月以降同五四年九月まで被告府と組合間で頻繁に会合が持たれているが、被告府としては組合員の使用者ではないため団体交渉ではなく単に組合の要望を聞く機会と考えており、会合のなかで警備員の労働条件が決定されたことはなかった。

(なお、以上の事実のうち、原告らが近畿保安警備の従業員として本件警備業務に従事していたこと、本件委託契約書一四条の記載内容、被告府は近畿保安警備に同社の従業員であった新谷明博を警備員から別の仕事に配転するよう要求し同社はそれに応じたこと、実際に原告らは仕様書に記載された以外の業務を行っていたことがあることは、原告らと被告府間において争いがない。)

三  原告らは、原告らと被告府との間には使用従属関係があり、被告府は原告らに時間外賃金を支払う義務を有する旨主張するので、前記認定事実に基づき検討する。

1  近畿保安警備が赤字を出さないためには、従業員の賃金総額を本件契約金の範囲内に抑える必要があることはいうまでもないが、このようなことは大口の取引先に依存している企業一般にいえることであって、経費を切り詰めるなり、他の取引先を開拓する等の企業努力によって対応すべきであること、前認定のとおり本件契約金は近畿保安警備の従業員の賃金を積算したうえで決定されたものではなく、個々の従業員の給与額の決定は近畿保安警備が行い、被告府は何ら関与していないのであるから、被告府が原告らの賃金額を現実に決定しているとはいえない。

2  原告らは本件契約書添付の仕様書が原告らの労務提供に対する被告府の指示命令であると主張するが、仕様書はあくまで近畿保安警備と被告府との間の契約内容にすぎず、この契約内容を具体的に実行するものは近畿保安警備であり、原告らは近畿保安警備の指示により警備業務に従事していたのであるから、仕様書により被告府が原告らの労務提供を指示命令していたということはできない。

3  本件委託契約書の一二条及び一四条は、被告府の近畿保安警備に指示する権限を記載したものであるが、実際に配転する権限は近畿保安警備にあるから、被告府が原告らに対し人事権を有していたとはいえない。

4  被告府と組合間において組合の希望により会合を行っていたが、これは被告府が原告らの使用者であることを認めたものではない。

5  常駐警備員が学校職員等から仕様書に記載されていない仕事を依頼され、これを引き受けていた経緯は前認定のとおりであり、右依頼を警備員に対する指揮命令ということはできない。警備員に警備業務日誌や連絡ノートを記載させていたことが警備員に対する管理とはいえないことも前認定のとおりであり、そのほかに被告府又は学校側が警備員を指揮監督していたことを窺わせる事実は認められない。

6  他方、警備員の学校内での仕事を実際に監視監督する者はおらず、夜間学校に居るのは警備員のみであること、近畿保安警備が警備員の募集採用、配置を行い、組合との間で賃金労働条件を決定していたこと、警備に必要な器具及び設備については近畿保安警備の負担であったことも前認定のとおりである。

7  以上検討のとおり、被告府と原告ら間に使用従属関係が存在したことを推認する事実は認められず、黙示という形であっても両者間に雇用契約の合意が成立していることを推認する事実の存在も認められない。

8  したがって、原告らの前記使用従属関係が存することを前提とする被告府に対する賃金請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。

四  原告らは被告府に対し、不当利得返還請求権に基づき時間外労働に対する賃金相当額の支払を求めるので検討する。

1  大阪サービスセンターは、昭和四二年度においては指名競争入札により、同四三年度から同四七年度までは随意契約により、被告府から本件警備業務の委託を受け、同四三年度から同四七年度までは近畿保安警備が右大阪サービスセンターの下請として本件警備業務を行っていたこと、昭和四八年度の指名競争入札は近畿保安警備が落札したため、被告府は同社に本件警備業務を委託したこと、昭和四九年度被告府は随意契約により近畿保安警備と本件委託契約を締結したこと、近畿保安警備は本件委託契約に基づき原告らを含む同社の従業員を本件警備業務に従事させたこと、被告府は、年間物価上昇率や三公者四現業の賃上げ率等を勘案して各年度の本件契約金を定め、その範囲内で近畿保安警備と本件委託契約を締結していたことは前認定のとおりである。

2  したがって、近畿保安警備に雇用された原告らが被告府の施設である府立高校等の警備を行ったことにより被告府が利得を得たとしても、その利得は、昭和四三年から同四七年度においては、被告府と大阪サービスセンター間の委託契約並びに同社と近畿保安警備間の契約に基づくものであり、同四八年度以降においては、被告府と近畿保安警備の間の本件委託契約に基づくものであるから、法律上の原因に基づくものである。

3  原告らは、本件委託契約は近畿保安警備にその従業員との間において時間外労働に対する賃金の支払ができないという労働基準法違反の雇用契約を締結させるものであり、本件委託契約は労働基準法に違反する不当なものであるから、被告府の利得は法律上の原因を欠く旨主張するが、前認定のとおり、本件契約金額は、昭和四七年度は随時契約により、昭和四八年度は指名競争入札により、昭和四九年度からは前年度の契約金額を基にして決定されたものであり、仮に契約金額が低価なため近畿保安警備に赤字が生じ原告ら従業員に対する賃金の支払に支障が生じたとしても、同社は右契約金額を自己の判断と責任によって受け入れたものであるから、そのこと故に本件委託契約が無効となると解することはできないので、原告らの右主張は失当である。

4  以上のとおり、原告らの被告府に対する不当利得返還請求権に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

五  原告らは、被告国に対し国家賠償法一条一項に基づき損害賠償請求をするので検討する。

法四一条三号は、当該労働が監視又は断続的労働に該当するとの要件を備えた場合、行政官庁の許可により法第四章及び第六章の労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用を除外するものであるが、当該労働が右要件を満たさないにもかかわらず行政官庁の許可がなされた場合には、右諸規定の適用は除外されないと解される。原告らは、本件許可処分は右要件を欠くから無効であり、かつ、長期間取り消されなかったとして、被告国に対し国家賠償法に基づき損害賠償を請求しているところ、原告らの労働実態が監視又は断続的労働に該当しない場合には、本件許可処分の存在にもかかわらず、原告らは近畿保安警備に対し時間外労働に対する賃金請求権を有するものであるから、原告らは本件許可処分によって直ちに時間外労働に対する賃金相当の損害を蒙ったとはいえない。もっとも前認定のとおり、近畿保安警備は昭和五九年八月七日破産宣告を受け、同六〇年七月二三日破産手続廃止(残余財産なし)により消滅したため、原告らの同社に対する請求権の行使は不可能となり、原告らは右賃金相当の損害を蒙ったというのであるが、同社の破産及び破産手続廃止は本件許可処分と何ら関係のない出来事であるし、本件許可処分がなければ、原告らにおいて同社に対し右時間外労働に対する賃金を請求し、その支払を受けえたという事情も認められないので、本件許可処分と原告らの右損害との間には相当因果関係が存するとは認められない。したがってその余の点について判断するまでもなく、原告らの被告国に対する請求は失当である。

六  よって、原告らの本訴請求はいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 土屋哲夫 裁判官 大竹昭彦)

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